法令遵守責任者は、法人で1名必ず選任しなければならず、児童発達支援や放課後等デイサービスにおいて、法令遵守の責任を担う重要な担当者です。どのような業務を行うか考えていきます。
法令遵守責任者とは
障害福祉サービス事業者は、障害者総合支援法及び児童福祉法に基づき、法令遵守等の「業務管理体制の整備」が義務付けられています。その一環として、法令遵守責任者の選任が求められています。
法令遵守責任者は、事業所の代表者または常勤の役員の中から選任し行政へ届け出ます。また、法令遵守に関する専門的な知識や経験を有する者であることが望ましいと考えられており、法務担当役員又は代表者が選任されることを想定されています。
選任された法令遵守責任者は、関連する法律や規則に基づき、障害福祉サービスにおける法令遵守を確実にする責任があります。関連する法律や規則には、障害者総合支援法及び児童福祉法や指定基準等の省令の他に、障害者権利条約、障害者差別解消法、障害者虐待防止法、地方自治法などが含まれます。これらの法令を理解し、組織内での遵守を確認する責任者となります。
法令遵守責任者の役割
法令遵守責任者の具体的な役割としては、つぎのようなことが考えられます。
- 法令遵守に関する方針の策定
- 法令遵守に関する規程の整備
- 法令遵守に関する研修や現場指導の実施
- 法令遵守状況の監査
具体的に、法令遵守責任者の役割を考えていきます。
1. 法令遵守に関する方針の策定
法令遵守責任者は、事業所の法令遵守に関する方針を策定します。
法令遵守に関する方針を策定することで、組織全体で法令遵守の重要性を認識し、法令を遵守するための意識を高めることができます。また、法令遵守に必要な体制や対策を明確にすることで、法令違反のリスクを低減することができます。
方針を策定する際には、つぎの点に留意することが大切です。
- 事業所の事業内容や規模に応じた内容とする
- 法令遵守の重要性を明確に示す
- 具体的な取り組み内容を盛り込む
策定した方針により、事業所の法令遵守に向けた方向性が定まり、事業所全体で共有することで意思決定の迅速化や行動の指針となります。これにより、法令遵守に関する方針は、法令遵守を徹底するために役立ちます。
2. 法令遵守に関する規程の整備
法令遵守責任者は、法令遵守に関する規程を整備します。
法令遵守に関する規程を整備することで、法令を遵守するための具体的なルールや手順を明確にすることができます。これにより、一人ひとりが法令遵守を意識し、その遵守を徹底することができます。
規程を整備する際には、つぎの点に留意することが大切です。
- 法令遵守に関する基本的な事項を盛り込む
- 実務に即した内容とする
- 具体的な業務プロセスにおける留意事項を盛り込む
- 違反行為に対する対処方法を盛り込む
- 法令の最新動向を踏まえて、適宜更新する
- 従業員が理解しやすいように、わかりやすく記載する
法令遵守に関する規程を整備し、その遵守を徹底することで、児童発達支援や放課後等デイサービスとして適切な活動と社会的責任を継続的に果たす事業所として障害福祉に貢献することができます。
指定の事業所・施設数が20以上の事業者は、「業務が法令に適合することを確保するための規程の概要」を「業務管理体制の整備に係る届出」に記載が必要なため、規程の整備は義務となります。
3. 法令遵守に関する研修や現場指導の実施
法令遵守責任者は、法令遵守に関する研修や現場指導を実施します。
研修や現場指導は、職員の法令遵守意識を高める次の3つの効果が考えられます。
- 法令遵守の意識の向上
一人ひとりが法令遵守の重要性や必要性を理解し、その意識を高めることができます。 - 法令遵守の知識の習得
一人ひとりが法令に関する知識を習得し、その遵守に必要なスキルを身につけることができます。 - 法令遵守の実践力の向上
一人ひとりが法令遵守の実践力を向上させ、実際に業務で法令を遵守することができるようになります。
具体的には、法令遵守に関する基本的な考え方や、具体的なルールや手順をわかりやすく解説する研修や、現場での実践的な指導を実施します。これにより、法令遵守の意識の向上、法令遵守の知識の習得、法令遵守の実践力の向上など、さまざまなメリットがあります。
研修や現場指導を実施する際には、つぎの点に留意することが大切です。
- 法令遵守の重要性を理解する。
- 従業員の立場や職種に応じた内容とする。
- 実務に即した内容とする。
- 具体的な法令の内容とする。
- 違反行為を防止するための知識やスキルを身につける。
- 参加者の理解度や反応を把握しながら、適宜内容を調整する。
法令遵守責任者は、法令遵守に関する研修の実施を必須とはされていません。現場での指導などを通して、法令遵守の意識、知識、実践力の向上などをOJTとして実施することでも良いとされています。
研修や現場指導を実施することで、一人ひとりが法令遵守意識を高め、実際の業務で法令を遵守できるようになります。
4. 法令遵守状況の監査
法令遵守責任者は、法令遵守状況を定期的に監査します。
監査を実施することで、法令遵守が適切に実施されているかを客観的に評価することができます。これにより、法令違反のリスクを低減し、法令遵守を徹底することができます。また、問題があれば適切に分析し改善策を立案することで今後の運用に役立ちます。
具体的には、内部監査や外部監査を実施します。内部監査は、法令遵守責任者や監査役が主導して実施します。外部監査は、公認会計士や弁護士などの専門家により実施されます。
監査を行う際には、つぎの点に留意することが大切です。
- 事業所の業務全般を対象とする。
- 監査の実施方法や手順を明確にする。
- 客観的で公正な視点から行う。
- 監査結果を適切に分析し、改善策を立案する。
- 法令の最新動向を踏まえて、適宜監査項目を更新する。
法令遵守責任者が適切な役割を果たすことにより、児童発達支援や放課後等デイサービスの事業所における法令遵守の確保が図られ、障害児の安全と安心、そして健全な成長が守られることにつながります。
指定の事業所・施設数が100以上の事業者は、「業務執行の状況の監査の方法の概要」を「業務管理体制の整備に係る届出」に記載が必要なため、監査は義務となります。
法令遵守責任者に求められるスキルや知識
法令遵守責任者が役割を果たすためには、つぎのスキルや知識が求められています。
- 法令遵守に関する専門的な知識
- 監査に関するスキル
- コミュニケーションスキル
- リーダーシップ
法令遵守に関する専門的な知識や経験を有する者であり、法人全体の法令遵守を指導監督する立場として日々の研鑽が大切になります。
現場から情報を拾い上げる技術
法令遵守について、現場がよく知っていることもあります。そして、法令違反状態の行動がある事を認識していることもあります。
ほとんどの職員は、法令違反状態の現状を誰にも伝えることなく慣れていったり、ひどければ離職を考えたりすることでしょう。
内部通報制度の設置などは小規模の事業所において求められていませんので、法令遵守の情報を適切に収集することが難しい状況にあります。
法令遵守責任者は、社内の風通しが良い状況をつくりだし、現場において法令遵守ができているか、問題があれば聞き出せるように務めなくてはいけません。法令遵守は、日々改善していくことで維持できますので、ぜひ課題点があれば拾い上げて改善していくことをオススメします。
変化への対応と継続的な改善
法令や社会状況は常に変化し続けます。法令遵守責任者は継続的な改善方法を確立し、組織の運営を最新の法的要件に合わせる努力が求められます。これには、法人と事業所への情報提供や教育、方針の見直し、制度の改善が必要となります。
法令遵守責任者は、法的な要件を遵守し、安全で効果的なサービス提供を確保する鍵となる責任者です。継続的な研修や現場指導を通じて、組織全体が法令を遵守し、利用者であるこどもと保護者の権利と福祉を最大限に守ることが求められます。
法令遵守責任者は、新規で開業するときに必ず届け出ています。すでに忘れ去られている責任者かも知れませんが、「障害者自立支援法又は児童福祉法及び法に基づく命令の内容に精通した法務担当の責任者」ですので、ぜひ法令遵守を徹底いただき、利用者であるこどもと保護者の権利と福祉を最大限に守る事業所となっていただければと思います。